18.料理道具のおはなし〜鋼の包丁〜

 

愛情を込めて料理をするって”どんな意味”だと思いますか

 

なんだか解るようで、よくわからないこの言葉に、最近ちょっとした答えを見つけた気がします。

 

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先日、包丁を新調しました。

 

以前は、ステンレス製の文化包丁(三徳包丁)を使っていました。

お料理を始めた頃のお手入れは、時々簡易の包丁研ぎを使う程度。

それでも包丁は毎日使うものですから、怪我をしないように割とマメに研いでいたと思います。

 

包丁がよく切れると、何よりも安全です。

切れない包丁は無理な力が入るので、怪我をしやすいだけでなく、うまく切れず食感の想像力を欠いてしまいます。

 

私がはじめて包丁を意識するようになったのは、大阪のある小料理屋でのことでしたーー

 

そのお店は、私の学生時代の通学路にありました。入り口横の小さな飾り窓に、いつも素敵な焼き物がライトアップされ品よく2・3個置いてありました。真っ白で縦に長い大きめの暖簾、美しい白木の扉、奥に長いカウンターがある事もそのうちに知りました。学生の私には敷居が高く感じ、いつか入ってみたいな、と数日おきに変わる飾り窓の器を眺めていました。

 

そしてある日、仕事で立ち寄った父にねだって連れて行ってもらいました。

 

旬の魚のお刺身盛り合わせは鮮度が良く、それぞれの素材に合う薬味が添えてありとても美味しかったです。それぞれの魚の食感が最大に引き出される切り方。おろしたてのわさび。日本酒の味も初めて覚えました。

このお店に教えてもらった美味しいお料理は数々ありますが、包丁を初めて意識した味は「タイラギの刺身」でした。

 

タイラギといえば、ソラマメ型の平貝の貝柱を横から均等に包丁を入れ、ソラマメ型を崩さないように二つにする、又は開くのが一般的ではないでしょうか。

私も子供の頃からタイラギはその形でいただいていたように思います。

 

この店のタイラギは、縦に切ってありました。ソラマメの形ではなく四角く、厚い貝柱が断面に美しく並んでいました。柱の繊維を断たないように縦に包丁を入れているのです。しっかりと角の立った一切れを口に入れると、新鮮で歯ごたえのある貝柱の繊維がしっかりと舌に触れ、ほどけていく。醤油とわさびが程よくからみ、噛むほどにタイラギの旨味をゆっくりと強くしていきます。

 

とても感動しました。美味しかった。

包丁の使い方や、プロの料理人の細やかな感覚の素晴らしさを感じ、とても印象に残りました。

 

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この頃から、手入れをして長く使う道具を意識するようになりました。

 

私も、砥石で包丁を研ぐようになりました。

始めは難しい包丁研ぎも、上達すれば切れ味がグンと良くなります。

包丁の種類も文化包丁に加え、お刺身用の柳刃が仲間入りしました。

 

それでも鋼の包丁を使うことは、まだまだ自信がありませんでした。

 

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適度な重さで切れ味がよく、手にしっくりと馴染む鋼の包丁。

反面、大変錆びやすく、すぐに洗って拭き上げなければ、ものの数十分で錆がでます。

使い手の道具の扱い方、丁寧さに加え、整えられた調理場を保つことが必要になります。

 

今はこの手間こそが和食の素晴らしいところだと日々感じていますが、お料理の味は作り手の心がそのまま現れます。平常心を保ち、一つ一つただ粛々と丁寧に作業しなければ、美味しく出来上がらないようです。

 

道具、準備、整理、素材を丁寧にあつかい細やかに気をくばる。

「愛情を込めてお料理を作る」とは、こんな意味なのかなと思います。

 

果たして、私にそんな美しい気持ちを保つことはできるのかな・・・。

新調した鋼の包丁を使うことは、修行の始まり。

台所に立ち包丁を握るとき、いつもより少し背筋が伸びる思いがしています。

 

包丁は切れ味を保ち丁寧に研いで使い続けると、少しずつ禿びれていきます。

短い刃物は、大切に手入れをして使ってきた修行の証。

カウンターの向こうに料理人ご愛用の短い刃物を見つけると、職人の”愛情”を感じなんだか嬉しくなるのです。